2010年(フランス・イタリア) アッバス・キアロスタミ作
久々に秀作を観ることが出来た。
冒頭から引き寄せられるストーリーと展開は終始考えさせられる内容。
美しい北イタリアを舞台に日常の一時を切り抜き永遠のテーマである「本物以上の贋作」について問い求める掛け合いは面白い。
新作発表のために訪れた「作家」
ギャラリー女店主の「シングルマザー」
二人の会話劇は観る者を深く心境に導く術がある。
その中でもテーマに対する視点を変えながらの
会話やカメラワーク・登場人物や風景などキャスティングや視線の移動はすばらしい。
何気ないカットの中には様々な含みをもたせ対比する映像はとても美しい。
たとえば、シングルマザーの視線の先に座る作家に対する苛立ちを表現しながらも、
その視線の先で行われているこの上ない幸せな結婚パーティの穏やかさ。
窓越しに感じとれる感情の起伏や構図はすばらしい。
特に映像を見る限り日常を描いているように感じるが実は非常に計算尽くされたものを感じる。
さらには永遠のテーマに向き合いながら進めるストーリーは必見。
長い時間を費やし遠い場所まで逃避行的印象だが
これもシングルマザーのギャラリーから30分程度の場所を舞台に
昼過ぎから夕方にかけた短いタイムワークストーリーとなっている。
いつしか偽りの夫婦を演じる二人は次第にテーマについて求めながらも自らの視点や感情を変えながら
自分を見つめなおし、本来の「贋作以上の本質」を見極めて行くこととなる。
それは、キアロスタミにとっては新境地になることは間違いなく次作が楽しみである。
余談になるが主演のビノシュはこの作品でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞している。
彼女を最初に観たのはカラックス作アレックス3部作の「ポンヌフの恋人」:1991年
(渋谷のシネマライズ:北河原温作の地下にはカラックスの直筆サインがある:笑)
パリで一番古いポンヌフ橋に住む住人と夢を追い求める女画家の純愛ストーリー。
今日の彼女を観る限り当時と何一つ変わることなく美しい輝きを持っていたことに嬉しさとすごさを感じる。
やはりこの作品は言うまでもなく幾度も観ることが出来る秀作といってよいだろう(sim)